49. 早枝に捧ぐ ~旅路の終わり~ / the end of journey

「ばあちゃんが危ない。帰ってこれんか」

1年前、旅先のクロアチアHvar島にいたときに一通のメールが届いた。

兄からのこのメールが、旅を中断し、帰国する決心をさせた。

少し前から"早枝（さえ）" ばあちゃんが体調を崩してた事は知ってたけれど、そんなに悪化してたとは知らなかった‥

大急ぎで格安のチケットを探した。ウィーンまでバスで行き、そこからドバイ経由で日本に飛ぶことになった。

「"Moku" のプレートは、あなたが再び戻ってくるまで外さないでおくわ」

5月以降、おれを滞在させてくれたアニーは、作業部屋の入り口に置いてた表札を外さず、別れを惜しんでくれた。

※ 荷物の半分はまだアニーの家の物置に置きっぱなしなので、いつか取りに行く予定です。

2006年の12月以来9ヶ月間滞在したこの島を、ついに去る時がきた。

最後に隣人のジュンコたちと青く輝くアドリア海に素っ裸で飛び込んでから、フェリーに乗った。

第二の故郷のようなHvar島とのお別れ

帰路

フェリーの中におれと同じビデオカメラを持ってる男がいたので話しかけてみた。ルーカスというギリシャ人のディレクターだった。彼はおれと同じくバルカン半島のドキュメンタリーを撮っていた。

おれたちはすぐに意気投合し、船のレストランで彼の作品のためにインタビューに応じた。

日本人から見てバルカン半島はどう映ったか？という質問だった。

複雑な歴史の問題を乗り越え、自分たちの国の未来を作り上げていこうとするボスニアの若者たちと出会ったことや、行く先々の町で楽器を持ってジャムセッションするだけで友人ができ、彼らが自分たちの部屋に泊めてくれたので、そういうバルカン人のオープンな気質などについて話した。

ルーカスとは、お互いの作品ができたら見せ合う約束になっている（彼の作品はギリシャの国営放送で放送する予定だそうです）。

一晩かけてバスでウィーンに着くと、飛行機の時間までレインボーギャザリングで出会った友人、アレキサンダーのアパートで一休みできたので、まるで世界中に仲間がいるような気分で嬉しくなった。

生粋のウィーンっ子、アレキサンダーの部屋で一服。彼は映像クリエーターで、イベントなどで会場を光で演出するアーティストでもある。

Hvar島から36時間かけて日本に戻るなり、ばあちゃんのいる広島の伯母のところまで更に数時間かけて直行した。

長い帰国の旅の末、やっと早枝の元にたどり着けた。

小さいころ両親が共働きだったので、おれは祖父母と過ごす時間が多かった。ばあちゃんはいつも屈託無く笑い、周りを明るく照らす優しい太陽のような人だった。

戦争中、日本中が極貧で大変な時期に、ばあちゃんの家だけは常に笑い声が絶えず、「あの家には何がそんなに可笑しいことがあるのだろう？」と周りの人たちが不思議がったエピソードがあるほど、早枝の明るさは"本物"だった。

軍人のじいちゃんが2.26事件に加担しようとしたのを、ばあちゃんが泣いて止めたというエピソードもある。左上段がおれの母親。

2006年、バルカン半島へ旅に出る直前、ばあちゃんを訪ねた。

それまでの4年間、東京でバタバタ仕事していて、忙しさにかまけて一度もばあちゃんどころか実家にも戻っていなかったから、旅に出る前に一度訪ねなきゃと思ったのだ。

「これで会うのは最後になるかも知れない」ばあちゃんは涙ぐんだ。

「何言ってんだよ！」

その時ばあちゃんは96才だったにも関わらず、インタビューを頼んだら1時間以上も波乱の人生を語るほど元気だったから、まだまだ時間はあると思っていた。

最後に、早枝と強く抱き合って旅に出た。

それから1年と3ヶ月の月日が過ぎた。

最期の再会

「もう目も開かないのよ」と伯母さん。

寝室には、点滴のチューブにつながれ、寝たきりになって、すっかり変わり果てた姿の早枝がいた。

おれは枕元にいき、大声で叫んだ。

「ばあちゃん！おれだよ！会いに帰ってきたよ！」

その時、寝たきりで開かないはずのばあちゃんの目が、開いた。

そして涙が一筋こぼれ落ちた。

焦点の定まらないその目は、何かを探してるようだった。

それから目を閉じ、再び眠ったように静かになった。

その一瞬の出来事は、まるで夢でも見てたかのようだった。

「・・信じられない」

ずっと看病してきた伯母はその様子を見て、ただ驚いていた。

それから旅の疲れを癒す間もなく、ずっと冷たくむくんだ早枝の手足をさすってたけど、翌日、早枝は静かに息を引きとった。

ばあちゃんは最期まで頑張って、おれが帰ってくるのを待っていてくれたんだ。

冷静にしなきゃ、と思っていたのに涙が止まらなかった。母や伯母たちの方がよっぽど気丈だった。

 

メッセージ

おれがバルカン半島への旅に出た直後、早枝は遺書を書いてた。

「皆様ありがとう！　

財産も何もない私が遺書など書く必要はないのですが只皆様にお礼が一言言いたくて一筆したためます。

９６才まで何とか自分のことは一人で出来ましたが明日のことは分かりません。もし寝たきりになったり認知症になったら許してネ。

この長い年月を皆様に愛されて生きてきたことは最高の幸せでした。31人（子供たち孫たち）の皆様に厚く厚く御礼申し上げます。

何もお礼が出来ませんが只一つ何年も毎日朝晩皆様の一人ひとりの名前を言ってお祈りしてきました。声に出して・・・

皆さん健康で生きてください。

天国で見守っておりますよ。２００６・６・１３（火）　

幸せな一生でした　ありがとう！」

自分の旅を終わらせてでも、早枝の長い旅の終わりを見届けることが出来てよかった。最後まで大切なものを教えてもらった。

ばあちゃん、重い荷物を降ろして、ゆっくり休んでね。

Comments

[眉山ラモン]

サイコーの笑顔！

[suno]

大好きでした！
今でもさえちゃんが編んでくれた
ストール大事にしてます。
私もさえちゃんのような女性になりたい。
がんばります。

[みっきー]

もくに、似ているね。
ありがとうと言えるおばあちゃんは、
本当に幸せだったね。
だいじょうぶ。又、逢える。必ず。

[eikou]

こころから感動しました。
ばあちゃんありがとう∞
読んでいてうちのじい、ばあちゃんに
子供のようにまた接しまくろうと決めまし
た。

[まるこ]

死んだ人には、泣いても叫んでも自分が死んでも会えません。
（先に書かれているみっきーさんのコメントへの批判ではありませんよ。）
大切な人をなくした人も、死んでいく人も、死んだ後に会えるならどれだけ救われるかな。
誰にでも優しくできる人、誰のことも大切にできる人、辛いときでも前向きに楽しめる人は、死んだら会えない、死んだらいないってことを知ってるから、今を大切に、人を大切にできるんぢゃないかなぁ。

[ひろこ]

おばあちゃんの笑顔♪幸せオーラいっぱいですね。
こんなステキな笑顔のできる女性になりたい。

[emi]

感動して涙が止まりません。
素敵なｵﾊﾞｱﾁｬﾝだったのですね。
最後の笑顔の写真・・・とっても素敵です。
黙ｻﾝの事も呼人ｻﾝの事も
天国から見守ってくれてる事でしょう。

それからｼﾞｭﾝｽｶﾑｰﾋﾞｰ最高でしたよ。
泣けて泣けて感動作でした。

ｚｅｐｐではお疲れ様でした。
私は純太ｻﾝ側にいたのですが
ｶﾒﾗを回してる黙ｻﾝが嬉しそうに
ﾆｺﾆｺしながら撮影してる姿を見て
こっちまでﾆｺﾆｺでしたｗｗ

ﾂｱｰ黙さんも頑張って下さいね！

[よっぴー]

素敵な写真ですね。そして、とてもかわいいおばぁちゃんですね！
私のおばぁちゃんは86歳です。子供の頃からかわいがってもらっていて、今は遠くに住んでいて、1年に1回位しか会えないけど、大切にしなきゃいけないな。と思いました。。。

それにしても、素敵な写真！！

[moku]

ラモンちゃん
ばあちゃんはジュンスカのメンバーからも愛されてて、こないだ広島のライブの時、宮田くんが「すてきな夜空」を歌うまえに「天国のおばあちゃんに捧げます！」って言ってくれたのがすごく嬉しかった。
多くの人には伝わらなかったと思うけど、あの人たちのさり気ない思いやりの深さに感動させられることがよくありました。

suno
すっかりご無沙汰しちゃっててごめんね。
元気でやってることを願ってるよ。
おれたちはラッキーだよな、想うことで早枝を心の中に持つことが出来るんだから。
それからsunoは素敵な女性だぜ！

みっきー
おれ、ばあちゃんの旦那に似てるとよく言われるんだけど、ばあちゃんに似てるって言われても嬉しいねぇ！
心に残る人は心の中に生きてるから、色んな意味で逢えるよな。

eikou
ぜひ！身近な人たちを愛しておくれ。
こないだ大樹たちとライブをやったよ！eikouの本、まだ読めてないんだぁ〜（泣）。元気でね。

まるこさん
ご意見をありがとうございました。

ひろこ
も素敵な笑顔だよ。

emiさん
おれの言葉では表現し切れないけど、身内とか関係なくても素晴らしい人でした。
あんな風に生きたいと思わせる大きい魂を持ってた人。おれの言葉で表現できないものを沢山もらった気がします。

映画も観ていただいてありがとうございます。
あの作品は、ファンのみなさんが熱い想いでライブに来てくれたからこそ出来た作品だと思うので、みなさんに感謝してます。
残りのツアーも呼んで頂いたので、最後までメンバーを見つめて旅したいと思ってます。

よっぴーさん
思ったら吉日！おばあちゃん孝行してあげて下さい。

[いそぴ]

私の祖母は私が幼い時、性格のキツい女性でした。おばあちゃんはこわい、そう思ってました。勝手に退院してきたり、施設を抜け出してきたり。祖母と母はケンカしてばかり。そんな祖母が自分から施設に入ると言いました。その時、祖母が小さくなってしまったことに気付きました。その時ようやく強くならざるをえなかった祖母を理解出来た気がします。先日、医師にいつなにがあってもおかしくない状態と言われました。話も出来なくっています。話は出来ないけれど、握った手の力で言いたいことがわかる気がします。黙さんのブログを見て、祖母がよりいっそう愛しい存在になりました。ありがとうございます。

[まるこ]

ご意見って…（汗）
水を差したかのようにとられてしまったんでしょうか。
人を大切にする人は人から大切にされるし、輝いてる人の周りには輝いてる人が集まる。ジュンスカのドキュメンタリー観て強く感じたことです。
そのようなおばあちゃまを持ってる黙さんだから、余計に輝いて出会いを大切にできる人なんですね、と、先のコメントに付け足させてください。

[moku]

いそぴさん
良かったです。

まるこさん
言葉が足りなくてすみませんでした。
今や人を大切にする気持ちを、忙殺する日常の中でも持っていたいですね。
色々褒めて頂いて恐縮です。ありがとうございました。

[chibi]

輝く笑顔の写真のおばあさま、家族の皆様を思い何年もお祈りし続けて下さる大きな心を持った女性だったのですね。遅くなりましたが、劇場での映像観させて頂きました。ずっと、J(S)Wを好きでよかった！と改めて実感する映像でした。ツアー初日の甲府では、普段ブログや映像でしか知らない黙さんを目の当たりにした私は、思わず駆けよってしまい写真とタオルを撮って頂きました。お忙しい中快く受けて下さった黙さん。とても嬉しかったです。これからも、カッコイイ姿で素敵な映像を撮り続けて下さい。『アリガトウ☆』黙さん！

[ヨク]

何度も読ませて頂きました。
本当にお疲れ様でした。ゆっくりと休まれて下さい。
新たな心で生きて行けそうな気がします。。。ありがとうございます！

[hirosi@yoshii]

いい日記、読ませてもらったよ。うさわに聞いた伝説のおばあさん、間に合って、看取れたんぢゃなあ、よかったな。人が逝く姿を見せてもらえるのって、貴重な体験になるよなー。
おばあさんのご冥福を祈るとともに、おまえのつぎの旅立ちと仕事の完成もいのってるよ。じゃね！

[moku]

ヨクさん
何度も読んでくれてありがとう。
おれがばあちゃんから受け取った何かを、書く事で人に伝えられたのなら嬉しいです。

[よしお]

はじめまして。
毎回読ませてもらってますが、ｺﾒﾝﾄするのは初めてです。
もくさんのおばあさんは、とても素敵な方だったんですね。
僕のおばあちゃんも素敵だったなー。
もくさんは、毎回一人一人にｺﾒﾝﾄを返していて、そうゆう細かい心遣いが出来るもくさんを見ていても、素敵なおばあちゃんやご両親、ヨヒトさん達に囲まれて育ってきたんだなと思いました。
でも、chibiさんとhiroshiさんにｺﾒﾝﾄ返してないのはなぜっすか？？？

[naomi]

ジュンスカの再結成で、ふと寺岡黙の名前を思い出し、このHPを偶然見つけました。覚えてないと思うけど先輩です。(小林くんや宮田くんの同級生)で、素敵なおばあさまでしたね。私の祖母は現在96才。認知症で、私の名前も忘れかけています。でも、微笑んでくれるだけで、いつも元気をもらっています。黙くんのおばあさまも心の中で永遠に微笑んでくれている事でしょう。ご冥福をお祈りします。
おでこの広い、まん丸お目目の黙くんが、すっかりワイルドになっててビックリしましたが、元気にされているようで、懐かしく拝見させていただきました。

[moku]

chibiさん
どうもありがとう！

hirosi@yoshii
元気か！？
腰は大丈夫か！？
近況をまた報告しておくれ！

よしおさん
どうも忠告ありがとうございます！
二人のコメントの投稿の通知のメールが迷惑メールになってたから気付かなかったです。

naomiさん
ブスダさんだよね！？？
嬉しい、ほんとに。
20年以上ぶりになるね。
おれには姉ちゃんがいないけど、naomi姉さんはほんと姉ちゃんみたいな気がするよ。
今こうして小林くんたちと仕事してるのがホントに不思議。
相変わらず元気でやってる事を願ってます！